011 四葉のクローバー
いつのまにか眠ってしまったのだろう。
復讐というものは思いのほか疲れる行為だった。
美央は帰っていた時も同じ場所で眠っていた。
安藤もずっとこのマンションにいた風を装うためにあてがわれた場所へと横になったが、本当に眠りについてしまったのは、ただ体が休息を求めていただけの話だ。
そうして眠りについていた安藤を起こしたのは美央だった。
「どうしたの?」
安藤はやさしく訊ねる。
美央が手にしていたのはよつばのクローバーだった。
「どうしたの?」
今度は驚いて、そう訊ねてしまう。
今は一月だ。
美央は窓の外を指さした。
安藤がそちらをみると、長らく掃除のされていないベランダが見える。
部屋はきれいに掃除をした安藤だが、そちらまでには気がまわらなかった。
ボイラーが近くにあるからだろうか。
ベランダの隅にたまっていた土ぼこりに、クローバーが生えていた。
指の数にもみたないそれの中に、よつばをみつけたらしい。
子供とは小さなことに気がつくものだ。
美央は手に持っていたボードに、あげる、と書いた。
「くれるの?」
美央は無邪気そうな笑顔で頷く。
安藤も笑顔を作った。
安藤はそれを黒い手帳にはさんだ。
よつばのクローバー。幸せの証。
一瞬、なぜかそれが罪人を架けるための十字架に見えた。
復讐只中、
(2007.08.19)