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016 手袋

「安藤。さっきの証拠品出して」
 それを手渡すとき、雪平の晒された手に触れた。驚くほど冷たい。
「雪平さん大丈夫ですか?」
 そう聞いた瞬間、雪平は安藤の手を握り締める。
「へー安藤の手あったかいなー」
 その姿はまるで大切ななにかを包み込むように。
「……雪平さん、手袋買いませんか」
「そう? 私はこれでも気にしないけど」
「僕が気にするんです」


017 ピアス

「ねえ雪姉。ピアスとかしないの?」
 理恵子が尋ねる。
「もうそんな年じゃないよ」
「えー雪姉きれいだからきっと似合うよ」
 もったいないと呟いて、彼女は自分の贔屓にしている店の名前をひとつひとつ教えてくれた。
「そのお店可愛いのたくさんあるんだよ。あ、でも雪姉ならあそこのお店のが似合うかも」
 楽しそうに話す理恵子を見て、雪平は微笑んだ。
「そう、じゃあ今度理恵子に選んでもらおうかな」
「本当! 約束だよ」

「夏見、そういえばピアスするとか言ってなかったっけ?」
 蓮見が聞く。
 雪平はそんなこともあったなと思い出しながら。
「いいんだ。もう見てくれる人いないから」
 寂しそうに笑う。
「なに言ってるのよ。私がいくらでも見てあげるわよ」
「ありがと。でももう興味ないから」


018 似顔絵

「美央ちゃん、東京タワー? 上手ね」
 そこに描かれている三人の人。
 一人は男の人で、一人は女の子、そしてもう一人は女の人。
 一人は佐藤和夫で、一人は美央。
 そしてもう一人は、牧村と同じエプロンをつけていた。
 だけどそれはどこか違う。それはすぐに思い当たる。
 彼女は水色の服を着ていた。
 牧村はくすりと笑う。
 美央自身はそのことに気がついてないかもしれないけれど。
 アルバムに見つけた雪平の姿。
 彼女は水色の服を着ていて。
 美央は桜ではないし、牧村は雪平ではないのだ。

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さくりと読めるものを。
(2006.07.08)