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024 ファーストフード

 きついな、と安藤は思った。
 警察になってまだ二日しかたってはいない今日でこれでは、先が思いやられた。
 安藤は自分にそれほど体力がないとは思ってなかった。
 警察学校でも鍛錬は怠ってはいなかったし、そもそも首席での卒業だった。
 はずなのに。
 同じ条件の、隣に座っている雪平は疲れたようすを見せない。
 運転こそしてないが、彼女は眠ってはいなかった。
 彼女と組ませてほしいと申し出た時、なぜこうも簡単に通ったのかその理由が分かる気がした。
 安藤は捜査が一段落してみる度に提案してみる。
「雪平さん、少し休みませんか?」
「そんな暇ないでしょ」
 すぐにこれだ。
「でもお腹とかすきません?」
 事件が始まってから、飲まず食わずだ。
 雪平はなにも答えない。
 安藤も諦めて、運転に集中する。
 そうしないと居眠り運転でもしそうだった。
「次、横に曲がって」
 安藤は言われたままにする。
「止まって」
 そして雪平は何も言わずに車を降りる。
 安藤は追いかけようとエンジンを止めるが。
「お前は車で寝てろ」
 そう言うと、雪平はいつもの歩き方で住宅街の角を曲がった。
 いきなりのことで、あれほど襲っていた睡魔がこない。
 しかし体はやはり疲れているらしく、動く気力はなかった。
 彼女はどこへいったのだろう。
 相方に愛想をつかして、自分だけで捜査をしにいったのだろうか。
 安藤に時間の感覚はなかったが、雪平はそう時間をかからずに戻ってきた。
 椅子の背を倒し横になっていたので、安藤はドアが開いた音で彼女が帰ってきたことを知った。
 慌てて椅子を起こす。
 がさがさ、と音がした。
 隣を見ると、雪平はコンビニのビニール袋を手に持っていた。
 なんだか似合ってない。
 雪平は袋ごと安藤に押し付ける。
 中は食べ物が入っている。
 安藤が雪平のほうをみた。
「なに?」
 雪平が言う。
「食べたくないの?」
 よく見てみると、それは全部肉を扱ってない食べ物で。
「いえ!」
 安藤は思いっきり否定をすると、パンをひとつ手に取った。

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安藤は雪平のささやかな気遣いに気がついているといい。
(2007.04.13)