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032 SAT

 東京タワーが見える。昼間のそれは夜とは別の建築物にみえた。
 雪平はどちらかというと、昼間の東京タワーのほうが好きだ。
 美央といっしょに行ったことのある思い出の場所だし、夜の鮮やかな東京タワーは父親が最後に見た景色を連想させる。
「雪平さん」
 声のしたほうへ向くと、瀬崎がいた。
「そういえば、なにをしていたんですか?」
「え?」
「僕が来る前」
 ああ、と呟いてから雪平は楽しそうに笑って言う。
「サボりです。今、下で部下が相手してます」
 そして手にしていた理恵子の写真を再び目にして、コートへとしまう。
「橋野か。あの子も悪気はないんだ。ただ混乱しているだけだよ。身近な人の一人は死んで、一人は殺人犯の容疑者だなんて」
「……そうですね。それが普通なんでしょうね」
 そう言って雪平は瀬崎の顔を見た。
 目が合うと、雪平はくすりと笑う。
「瀬崎さんはどうしてここに?」
「コーヒーを買いにいったとき、屋上へ向かう貴方の姿が見えて」
 そこで雪平がこぼしてしまったコーヒーのことを思い出したらしい。
「新しいコーヒー、買いに行きましょうか?」
「いいです。もう戻りますから」
 雪平は手についた砂を払う。
「一緒にごちそうできなくてすみませんね。瀬崎さんはどうします? 降りますか?」
 瀬崎はいえ、と首を横に振った。
「もう少しここにいることにしますよ」

 雪平が屋上からの階段を下りると、そこには安藤がいた。
「安藤。もう終わったんだ」
「聴取になりませんから。なんとかなだめて終わりにしましたよ」
「そ、ご苦労さん」
 そう言って彼の横を通り過ぎる。
「あの、雪平さん」
「なに?」
 振り向くと、その場所から一歩も動かないままの安藤がいた。
 安藤はなにか言いかけて、すぐに思い直したように口をつぐむ。
「……なんでもないです」
「じゃあいくよ」
 エレベーターに乗り込む雪平。安藤は慌てて彼女の後を追う。
 安藤はちらりと階段のほうを見やる。
 瀬崎が降りてくるところだった。

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タイトルはSATURDAYのSATです。警視庁特殊急襲部隊? そんなもの知りません。
(2006.07.03)