033 密会
無機質なメロディが繰り返し、着信を伝える。
雪平が通知を確認すると、佐藤和夫からだった。通話ボタンを押し耳を傾ける。
「もしもし」
その向こうから聞こえてくるのは佐藤の声。簡単な社交辞令の挨拶。
「今、時間あるか?」
雪平は会議室に入っていく同僚を横目で見た。
その中に安本と三上の姿を確認して、雪平は指定の返事をする。
「じゃあ、いつもの場所で」
待ち合わせの場所に先についたのは佐藤だった。
雪平が現れると、佐藤は飲んでいたのと同じ缶コーヒーを手渡す。
雪平は礼を言うと、隣に並んでそれを飲んだ。
話は現在手がけている事件のこと。
守秘義務があるので、あたりさわりのない情報ばかりが口を出る。
相手も期待はしてないらしい。特に落胆した様子もない。
そんなことは初めから分かっている。
それでも事件のことでぐらいしか、電話で済ませられずに会える口実なんてものはなくて。
自分を誤魔化す為の名目は、情報の探りあい。
「話はそれだけ?」
雪平が聞く。
佐藤は答えない。
本当に話したいことはなにもいえないのはお互い様だ。
離れたくなんてなかった。
佐藤は思う。
ただ刑事を辞めて貰いたかっただけなのに。
雪平は思う。
ただ刑事を辞めたくはなかっただけなのに。
それぞれの思いは言葉にならず、静かな沈黙を作る。
三年前以降、小説型予告殺人前あたり。想いのすれ違い。
妥協はできない。
(2006.06.25)