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058 色

 ひどく甘ったるいコーヒー。
 斉木はその味を始めて飲んだ。
「いくつ?」
 訊ねたのは砂糖の数。
「ひみつ」
 そう言って葉子は笑う。
 斉木は何も言わず、口直しにブラックのコーヒーを飲む。
 先ほどの甘さのせいか、思ったより苦味が引き立っていて斉木は顔をしかめた。
「へんなの」
 葉子が言った。
「あなた甘いもの好きでしょ?」
 見抜かれている。
 本当はブラックのコーヒーなんか好きではない。
「甘いものを食べるとバカになるって教わったんでね」
 しかし親を離れてから甘いものを食べ始めたのは、その反動かもしれなかった。
「そんなの迷信でしょ。はい、疲れた時は甘いもの。無理しないでね」
 手渡されたのはこんぺいとうだった。
「こんなものどうしたんだ?」
「別に。ひさしぶりにこういうの見つけたから、衝動買いしちゃった」
 斉木はその鮮やかな色を眺め、口に含んだ。
 幼いころに食べたものと、同じ味がした。

underplot: story:

婚約者とこんぺいとう。
(2007.03.24)