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059 百発百中

 東京都内の射撃場。
 広さに比例せず人気はなく、雪平と安藤の二人だけがそこにいる。
「雪平さん」
「なに?」
 唐突に、安藤は問いを投げかける。
「犯人撃つ時って、どんな心境でした?」
 雪平はヘッドホンを被るところだった。
 そのまま射撃用の拳銃を手に取る。
 すぐに開始の合図が鳴った。
 安藤も慌てて射撃を始める準備をし、耳栓をする。
 それっきり、世界は一段音が鈍くなる。
 安藤はちらりと隣の的を見る。
 まだ始めたばかりだというのに、中心に近い位置にいくつもの穴が開いていた。

「ナイフ下ろして両手をあげて降伏してくれればいいのに」
 そう雪平が言ったのは、訓練が全て終わった後だった。
 安藤は始めの会話を忘れかけていたので、一瞬的外れな回答をしてしまう。
 そうやくその話題に思いあたると、安藤は納得できないように言い返した。
「手とか、足とか撃てばいいじゃないですか。それだけの腕があるなら」
「できないの。逆上した犯人は人質を傷つける。それだと意味がない。そして私は犯人の命より人質を優先する」
 安藤はふと、なにかを考えるように黙り込む。
「たとえば、本当は殺すつもりがなかったとしても?」
 雪平はなにを言い出すのかという顔をしている。
「ただ自分の保身のための、演技だったとしても? ほら、そういう状況の犯人って人質を放せば逆に自分の身が危ないし、だから」
「それでも私は撃つよ。人質は衰弱していくからね」
 くだらないとでもいうように、雪平は会話をやめた。
 彼女がその場から去ろうとしたとき、パンとなにかがはじけるような音がした。
 雪平が振り向くと安藤は拳銃を握っていて、その銃口からは新しい硝煙が立ち込めている。
「あー」
 安藤は言い訳をするかのように、すぐにその拳銃を調べた。
「……すみません。安全装置つけてなかったみたいで」
「バカかお前は」
 そして雪平は扉の外へと出て行ってしまう。
「あ、ちょっと待ってくださいよ!」
 安藤が雪平の後を追う。
 一瞬だけ振り向いて、自分の射的を見た。
 ほとんどの弾がそれて、広範囲に穴が空いている。
 ただある一点、その的の中心の新しい焼け焦げた跡を避けるように。

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二人とも。
(2006.11.18)