073 CD
ブレーキの音を聞いた時、安藤はそれをすぐに雪平夏見の車だと理解した。
さすがと言うべきか。彼女の推理には無駄がなく、だからこそ予定通りに事が進められる。
安藤は銃の弾を確認する。全てを取り出し一発だけ装填した。もちろんそれを外すつもりは毛頭ない。
血の跡を追いながら、白いデスクに残したメッセージのことを安藤は思い出す。
最後に残した言葉。
あれは嘘の告白だった。少なくともそのつもりだった。
本当にただの保険だったのだ。自分が死んでしまったときも、復讐を果たせるようにと。
それなのに。
「……それが本当になってたら、世話ないよな」
安藤は思わず呟いた。
なぜここまで彼女に惹かれているのだろう。
これは五年も前から企てていた計画的犯行だ。いくつものやり方を想定し、用意している。
しかし安藤は最悪とも言える筋書きを自ら追っているのだ。
僕は殺される。
悪くはないと心からそう思える自分に、安藤は苦笑した。
階下に逃げ行く店長に向かって撃つ。銃声は彼女に居場所を知らせたはずだった。
初めての安雪なのにブラック安藤。
いや、犬っころのように雪平さんの後追いかけている彼の方が好きなのだけど。
(2006.06.12)