098 夢
安藤が死んでから、お酒の量が増えた。
一人でお酒を飲んでいると、よく安藤が傍らにいるような気分に陥る。
特に事件があるときには、安藤ならどう答えるだろうということを考えた。
そうして雪平自身のものとは少し違う視点を持つことによって、ヒントを得たこともあった。
相対している自分の意見を、安藤に語らせる遊びはなかなか面白かった。
まあ、ささくれ立った自分自身をなぐさめられるくらいには。
「ねえ、安藤」
雪平は彼に問いかける。
「今の私、どう思う?」
それは小田切に聞かれた問いだった。
それならば本人に聞くのがてっとりばやい。
(どうって……いつもの雪平さんじゃないんですか?)
安藤は困ったような声を出した。
雪平は苦笑する。
確かに、気づく。彼の前では変わってはいない。
私はバカだ。
幻影の安藤にさえ、格好つけてしまう。
「ねえ、安藤」
もう一度、同じように安藤の名前を呼ぶ。
「私は、安藤のことが――」
呟くと、雪平は目を閉じる。
もう安藤の声も、気配も聞こえない。
そこでいつも彼は消える。
理由は分かりすぎるくらい分かっていた。
仮初でしかない安藤。
彼を作り出している私が、答えを想像できないからだ。
さあ、お前はなんて答える?
その問いに答えられる存在は、もうこの世にはいないというのに。
斉木さんの話を書きたくて、spをもう一度見ました。
なぜかできあがったのは安雪。
(2007.03.23)