underplot: story:

100 刑事

 もつ兵衛で雪平と安藤はお酒を飲んでいた。
 安藤が名前を呼ぶ。
「雪平さん」
「なに? 今回のこと?」
 めんどうくさそうに口を開く雪平。
「事件のことじゃなくて……いや、でも全然関係ないわけじゃないですけれど」
「なんでもいいからさっさと話して」
 雪平は返事をしながらも、なにか別のことを考えているようだった。
 それはきっと、今日扱ったばかりのその事件のことだ。
 どうせ他愛もない話なのだ。真面目に受け答えをされなくても全然構わない。
「雪平さんは、いつまでこの仕事を続けるつもりなんですか?」
「犯罪者全員牢にぶち込むまで」
 まるでその質問を予期していたかのように雪平は即答した。
「……それ、死んでも終わらないと思いますよ」
 安藤がそんなことを呟くと、雪平に睨まれた。
 慌ててフォローをする。
「あ、結婚退職とかは考えてないんですか?」
「バカかお前は。私が刑事になったのは結婚した後だよ。なに? 安藤は私にやめてもらいたいの?」
「いえ、ただ……」
 そこで安藤は黙ってしまう。
 雪平はその間に、残っていたコップの中身を飲み干した。
「……雪平さんが刑事にならなかったら、僕とは会うことはなかったんだなと思うと」
「は? そんなことあたりまえでしょ?」
 雪平は不思議そうな顔をする。
 安藤は、そうですよね、と苦笑に似た笑みをもらした。

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知っている者と知らない者のズレ。
(2006.08.12)