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愛する者

 言ってしまえば壊れてしまうことは分かっていた。
 それでも雪平は確かめずにはいられなかった。
「瀬崎さん、推理小説書いたのはあなたでしょう」
 瀬崎はなにも言わない。いつもの無表情さで、ただ雪平の言葉に耳を傾けている。
 雪平が問いかける。それに瀬崎は言葉を選ぶように、話し始めた。
 そして。
「あなたもそうでしょ。そして、アンフェアに生きてきた」
「私は違う。私は、あなたとは違う」
 沈黙だけが残される。
 再び口を開いたのは雪平だった。
「……一つ、考えがあるんですが、いいですか」
「僕を逮捕することですか」
 視線を落とし、雪平は笑った。
「それもありますが」
 ゆっくり顔を上げて、瀬崎の目をみる。
「クライマックスなんですから、嘘はつかないでくださいね。それがルールなんでしょう?」
 瀬崎はどこか面白がってるような声で、短くはいと答える。
「……理恵子のこと、どう思ってました?」
「なぜそんなことを?」
「だって言ったでしょう? 次の標的は「愛する者」だって。それとも、それは創作ですか? 平井唯人を容疑者にするための」
 瀬崎は少しだけ時間を置いて、答えた。
「部下として、好きでしたよ」
 雪平は安心したように、そう、と呟く。
「それが聞きたかったの。あの子はあなたのこと、上司として尊敬していたから」
 何度目かの沈黙。
「……あなたを逮捕します」
 雪平が言った。
「その必要はないですよ」
「どういうことですか?」
「そのままの意味です、雪平さん。やはりあなたは犯人を見つけてくれました」
 今度は瀬崎から雪平に目を合わせる。
「こちらからも最後の質問です。僕のこと、どう思ってますか」
 雪平は目をそらし、なにかを考えこむようにして黙った。
 伝える気がないのか、分からないだけなのか。それとも全然別の理由なのか。
 どちらにしろ、その沈黙が答えだった。
「……そうですか」
 瀬崎は彼女に背を向ける。
「今、最後の仕事をしようとしていたところなんです」
 さようなら雪平さん。
 その言葉は風に消され、誰の耳にも届くことはない。

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最終話見る前に考えてたやつなので、「愛する者」の解釈が少し違います。
瀬崎は理恵子のこと、好きだったのかななんて。少しくらいは。
(2006.11.17)