underplot: story:

survivor

 誰もいない休憩室の片隅に雪平の姿を見つけることができた。
「雪平」
 三上が声をかけると、彼女は顔を上げた。そして無理やりに笑顔を作る。
「どうしたの?」
「こっちのセリフだろ。会議、もう始まってるぞ」
「んーなんだか馴染めなくて」
 そして雪平は視線を下ろした。
 三上は数席分の間を置いて隣に座る。
「薫ちゃんはいいの?」
「なにが?」
「会議」
「俺は検視官だからな」
 そう答えると、雪平は黙り込んだ。
 三上は隣に視線を向ける。
「……雪平、今からでも会議戻らないか?」
 彼女はなにも言わないままだ。
 そしてようやくといった感じで口にした。
「みんな、いなくなっちゃった」
 短い間に世界は驚くほど形を変え、雪平はたくさんのものを失くした。
 理恵子から始まり、蓮見も山路も所轄から姿を消した。
 安本さんもこんなときに退職しなくてもと三上は彼のことを恨めしく思った。
 弱っている彼女を見るのは辛い。でもほうっておくことなんてできるはずもなかった。
 そして安藤。
 彼との付き合いは、他の人々に比べるとずっと短い。
 しかし彼が雪平の大部分を占めていたことは、すぐに分かった。
 俺がいる、なんて言葉は言えなかった。
 三上薫はここにいる。しかしそれがなんだというのだろう。
 誰の代わりにもなれやしない。せいぜい隣で言葉を聞いてやれるくらいだ。
「佐藤さんがいるだろ。美央ちゃんも」
 そうだったねと、雪平は微笑んだ。

 雪平が立ち上がる。
「行くのか」
 どこに、とは聞かなかった。
 主語がなくても彼女は分かっていたし、三上にも分かっていた。
「ええ」
 雪平は答える。
 そしていつもの歩調で、部屋を後にする。
 鑑識が終わり、葬式が終わり、それでもまだ終わっていない彼女なりの弔い。
 儀式を行う為に。

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タイトルはメインテーマから。サヴァイヴァー。
サバイバルを連想してワイルドな言葉として捉えていたのですが、英和辞書に載っていた言葉が「生き残った人」で、他には「生存者」「遺族」。
アンフェアの中でこの言葉を持ち出されると「生き延びた人」というよりは「死ねなかった人」のようなイメージ。なんとなく。
(2006.06.16)